大正時代 八尾の点景

はじめに
四季折々の点景を思いつくままにつぶやきながら、
五・七・五の言葉にのせてつまらぬ落書きをしましたので
ご笑覧下きい。

001.元日や日の丸戸毎にはためけり
002.元日の年始回りや貴名受け
003.夢中なり稲株踏んで凧を上げ
004.オリオン座きらめいており凍てる空
005.風呂帰りタオルはすぐに硬直し
006.竹馬の上手は片手片足だ
007.らかに百人一首夜静か
008.双六の上った途端万歳だ
009.駄菓子屋のキナコ少ないわらびもち
010.おたいやのコポレウメ売る土橋横
011.寒行はうちわ太鼓とお念仏
012.小正月しめ縄焼いて無事祈る
013.紀元節雪の深ぎは五寸五分
014.雪の日は校長さんも雪合戦
015.小田巻は出来すぎており小屋帰り
016.うどん屋で風邪薬のむ寒さかな
017.焼いもの鍋のふたあけ塩をまく
018.子をかばう西風強し母性愛
019.凧上る腕に答える冬空や
020.手をかざし顔をそむけてトントだき
021.初七日のご詠歌ゆっくりいと淋し
022.尚早し風上向いた風車
023.人一人通らず寒夜夜鳴きそば
024.誘い出す友達早く雪の朝
025.雪景色見違ヘりけり庭の景
026.節分や赤イワシ食べ麦を食べ
027.節分のアメひねりけりツバつけり
028.初午の太鼓の音も春めきて
029.貨車はみな雪のせてくる北国の
030.若返る在郷軍人招魂祭
031.視察日や群長さんはいかめしい
032.沢の川に春宵一刻月おぼろ
033.春の宵花イチモンメ女の子
034.葉の花やモンシロ蝶が飛び交へり
035.のどかなり雲雀が上るまだ上る
036.一年生名前呼ばれるうろたえる
037.思い出は旬いなつかししょうぶ湯
038.初夏を知る花の色香でアカシヤや
039.いい旬いアカシヤの下長瀬川
040.麦秋や暑くはないが少し汗
041.大根の花白くして蝶が舞う
042.初夏を見る麦わら帽子新しい
043.柵の横かくれんぼうはもういいか
044.れんげ草平野のマンプ田舎道
045.人の波マンプのお練りかにをうる賣る
046.あじさいの海雨の晴間の色さやか
047.町つかる沢の川濁る雨やまず
048.古老言う止まん雨なしひとりごと
049.蛙鳴き田面に早苗美しい
050.アクピするすることなくて警察官
051.青田風よいにほひするさわやかさ
052.沢の川や流れは清ししじみとる
053.足を切るハダシで歩き川の底
054.ハス二匹手掴みでとる岩の陰
055.四つ手網川に置くなり鮒二匹
056.のどかなり田植えがすんで蛙鳴く
057.子うなぎの遡上しており沢の川
058.しかられる青田に入れてポール投げ
059.番傘は廊下の板に整然と
060.つぶよりの若衆かつぐ夏御輿
061.夏祭り一肩どうや御輿かき
062.情緒あり戸毎に燈明夏祭
063.肥車ゆっくり通る町静か
064.金魚売りまとめてまけて帰途急ぐ
065.夕暗のジンタが誘う中村座
066.夕涼み浴衣を裏に歩く人
067.寝屋川ヘ自転車で行く野球負け
068.売りさばく大きな声でカチワリ屋
069.散水車一日二回夏日照る
070.中村座囃子にぎやか夏の宵
071.はさみおりヤンバを指に子供達
072.昼寝する慈願寺静か蝉の声
073.蝉しぐれ人影見えず静かなり
074.静かなり蝉しぐれだけ夏の午後
075.雨宿り夕立止まず日は暮れる
076.夕立の降りはじめたり土ほこり
077.夏日照り上下に動くハネツルべ
078.持ち帰る硯は家に学期末
079.悪童の泳ぐ水池に洗う桶
080.網をさすキンタイ泳ぐ水清し
081.鮒つかむ小川にそっと人いない
082.すれすれにつばめ飛ぴ行く道暑し
083.夜角力の相生強しあぶら汗
084.夜角力の見物多し野次多し
085.浜風や裸電球角力取り
086.日落ちて石橋熱し沢の川
087.墓前燈暗夜に並ぶ孟蘭盆会
088.うらぼんや遠くに見える灯の供養
089.幽玄の墓地の行灯孟蘭盆会
090.地蔵盆南無地蔵尊絵行灯
091.地蔵さん思わぬ場所に地蔵盆
092.行灯の情緒あふれる八尾地蔵
093.踊り子の帰ったあとは虫の声
094.地蔵盆戸毎の行灯秋近し
095.地蔵盆はしゃぐ浴衣の子供かな
096.夕暮れに稲穂を分ける秋の風
097.赤トンポ飛ぴ交う田面秋の暮れ
098.夏休みすめば全員草むしり
099.宿題も日記もともに登校す
100.運動会四列縦隊足軽し
101.月見酒月は無くとも酒宴かな
102.すすき、はぎ、だんご供えて名月や
103.満月や狐山にも三昧の音
104.名月や雲一つなし冴えわたる
105.秋近し静かにすだく虫の声
106.秋の花あぜ道目立つ蔓珠沙華
107.コホロギが秋の訪れ知らせけり
108.秋晴れの運動会や花火かな
109.豊年や稲穂下向き秋深し
110.秋静か蝶とまりおり槙の枝
111.号砲がなってざわめく運動会
112.秋空に花火作裂運動会
113.楽隊が旗持ちつれてねり歩く
114.楽隊が辻角毎に芸題告ぐ
115.いなごとりホーラク鍋で薬にし
116.稲刈りがすんで横たう案内子かな
117.案山子立つ稲の海原うねりあり
118.秋の穂と蔓珠沙華の黄と赤
119.野原では奏楽止めて旗を巻く
120.かにをとるご詠歌聞いて梅厳寺
121.母の声夕食告げる秋の暮
122.暮れ早し匂いただよう焼き魚
123.鰯雲今年も秋が近づけり
124.秋空に一声高き百舌の声
125.日は西に避ぴつかれて秋の風
126.木枯らしのいちょう並木や秋深し
127.いと赤しカラスの枕冬近し
128.冬近し障子を洗う沢の川
129.銃声や雀が屋根をころげ落つ
130.テントクの如来が回り秋深む
131.はずむなり数あてくらべ柿の種
132.遡上する鮒かたまって早くない
133.いたましい薬売り行く廃兵さん
134.すぐわかる何処から刈った稲の株
135.走り初め、できてうれしい丁稚乗り
136.表町いつもとちがう年の市
137.中村座ハネテざわめく下駄の音
138.中村座映画楽しい松之助
139.花嫁は人力車にてのんびりと
140.賃つきの餅屋がきたり夜半かな
141.威勢よく祝儀の礼を言う男
142.此所彼所兵隊泊り演習日
143.軍服の匂い良家にそぐわない
144.假宿舎山徳に寝る師団長
145.河内野に演習となる冬田かな
146.兵隊の従隊続く演習日
147.堂々と馬に乗ってるえらい人
148.機関車は怪物のよう駅に入る
149.二時間に一本走る汽車の便
150.乗る人は、みんな知ってる電車内
151.慈願寺で三角べース夢中なり
152.鬼ごっこ釣り鐘堂も逃げる場所
153.長瀬川カタン会社の蒸気飲む
154.半鐘台常は無用に見られおり
155.消防車あるだけでよい安心さ
156.風呂帰り今すいてますご挨拶
157.避病院ひっそりとあり松林
158.夕涼み浴衣の糊のきまりおり
159.ローソクの光にうごく魚の影
160.風は無し柳の枝は静止せり
161.熱き宵フンドシ一つ風呂帰り
162.地蔵盆過ぎて縁台仕無いけり
163.夏の午後、地ひびき立てて牛車行く
164.悪堂は、水池で泳ぐ鯉つかむ
165.水沈む日焼け畑ハネツルべ
166.盛夏過ぎなにかさびしい残暑かな
167.散水夫汗が吹き出す照り返し
168.日盛りの夏を駆けぬく鰯売り
169.夏の宵ハダカかくれる巡査くる
170.一陣の風さわやかに金魚売り
171.店一つ朝は静かに夏まつり
172.ハネツルべ上下に動く炎暑かな
173.馬車走りラッバ吹くなり八尾街道
174.馬車の中乗客みんな無言なり
175.チンドンヤ面白そうに芸題言う
176.天理教朝な夕なに雅楽聞く
177.輪番の子と友となり御経読む
178.御坊前昔のままでロケーション
179.桃山の姿麗わし太鼓楼
180.冬黒し夏白くなる巡査服
181.花火鳴り人形追って皆走る
182.汽車止まり号笛鳴って汽車動く
183.冩生画は青田と汽車と文化村
184.慈願寺に亀蛇動く薮の中
185.舞い習い満員になる中村座
186.踊り子の親うろたえる舞い習い
187.投げ銭は笹の葉よりも多くつき
188.伊勢旅行二見の宿のにぎやかさ
189.なんとなく伊勢の宮居のおごそかさ
190.玉砂利を踏んで神殿伏し拝む
191.松ちゃんの活動写眞中村座
192.宅診は、人力車にて医者迎え
193.人力車医者座り居り車夫走る
194.花嫁は人力車にて嫁入りす
195.嫁入りは提灯もって出迎える
196.半鐘がなって魚屋消防士
197.自転車屋消防ポンプ動かせり
198.火事場では皆んな職持つ消防士
199.夜の火事提灯もって火事見舞い
■番外■
200.軌道車の加美に止まりて虫すだく
201.楽天地回る舞台で鬼ごっこ
202.常磐座の大扇風機二台あり
203.百々ちゃんの剣劇すごしアシべ館
204.面白しターザン強し松竹座
205.名の通り夫婦ぜんざい二杯でる
206.変な店正弁丹吾かんとだき
207.大丸は草履にかえてあがるなり
208.乗り換えて市電八銭行き次第
209.ライオンの通天閣はハミガキや
210.ルナパークゴンドラ走る空の上
211.正月の道頓掘は人の渦
212.お座敷に急ぐ芸妓のアデ姿
213.川口の中華の店へ市電乗る
214.映画館男女の別に席があり
215.仕切りあり海水浴は男女別