沢の川(さのかわ)

八尾の町を東、西に分けて南から北へ流れる清流が沢の川である。
春の朧月が川面に映って漸く芽がふいた柳の枝が垂れ下がっているのを眺めながらの川岸の漫歩は、将に春宵一刻価千金である。
 酷暑の夏は、かき氷屋の前の縁台将棋の周りを観戦子が、団扇を使いながら勝負手の手順について横からロを出して騒々しい。
 川岸の一段下がった個所に、四つ手網を設置してローソクを灯を求めて、ハス、フナ、モロコ等が遡上して来るのをじっと見つめて待っている人がいる。
日中の日照りで焼けた石橋の欄干が、夜間になっても未だ熱いのに、その上で座って片肌ぬいだ人が飽きもせず、魚の獲れるのを見物している。
晩秋の川の水が冷たくなる頃になると、障子紙を振り替えるために桟をタワシで洗う人が散見される。魚の泳ぐ早きもゆっくりと川底を這うように、数十匹のフナが遡上している。
石橋の上を、屎尿を汲みとった担桶を積んで、大阪から山ネキに帰る牛車がのんびりと沢の川を横切って東方へ通つて行く。
冬の沢の川畔にある朝日湯からの帰る時、寒風が電灯線をヒュウヒュウと唸らせて、帰宅までに手拭が凍ってカンカンになっている。石橋の東詰めに、今川焼きの屋台がアセチレン燈を一つつけて、夜遅くまで厳寒の中、ひっそりと佇んでいる。

参考:沢の川は現在の本町筋の道幅約七メートルその真ん中を約三メートルの川幅で流れていた。現在は暗渠になつている。